コンセプト

15:気候変化と熱病:陰陽の病理<傷寒>

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一年間の気候は、春夏秋冬の4つに区分されますが、
365日かけて太陽の周りを一周するわけですので、太陽黄経を24に区分すると、
15度ずつ15日毎に気候が少しずつ変化していくことになります。

これが、二十四節気です。

立春、雨水(うすい)、啓蟄(けいちつ)、春分、清明、穀雨。この間が春です。
立夏、小満、芒種(ぼうしゅ)、夏至、小暑、大暑。この間が夏。
立秋、処暑、白露、秋分、寒露、霜降。この間が秋。
立冬、小雪、大雪、冬至、小寒、大寒。この間が冬となります。

立春、立夏、立秋、立冬の前日が、四季の節分と呼ばれています。

また、春夏秋冬のことを四時と云い、厳密には、
四季とは、この四時の季(すえ、最後という意味)18日間のことを指します。

各四時の最後の18日間は、土用とも呼び、最も春・夏・秋・冬らしい時期となります。

傷寒論(後漢の末期、西暦200年に、南陽の張機、張仲景によって書かれたと云われる漢方の古典)は、
陰陽を特に重んじた漢方のバイブル的存在ですが、
季節の移り変わりは、結局、陰陽の気の動きであると述べています。

気候は15日ごとに移り変わって行きますが、人体には感じることもあり、感じないこともあります。

誰もが感じる四季の移り変わりでは、
春の暖かさから夏の暑さへ、そして秋の涼しさから冬の寒さへ変化を繰り返します。

これを陰陽の気の移り変わりで言うと、
冬は陰気が最大で寒く、立春頃から陽気が少しずつ多くなり、春分が来ると、陰気と陽気は平均します。

そして夏に向かって、陽気がだんだん多くなって行き、夏至になると陽気は最高潮に達し、暑くなります。

夏至が過ぎると、今度は陰気が少しずつ増えて行き、秋分になると、陰気と陽気は平均します。

そして冬に向かって、陰気がだんだん多くなって行き、
冬至になると、陰気が最高潮に達するので寒くなるわけです。

このように陰陽の気は巡るわけですが、この変化に人体が適応できないと病気になるのです。

傷寒論を少し紐解いてみましょう。

熱病は、春夏秋冬の四時の気候が原因となって引き起こされますが、
この中で寒さが原因で引き起こされる熱病を「傷寒」と呼びます。

霜降(10月24日頃)の節から春分(3月21日頃)までの間に、
寒さに傷められて発病するのが「傷寒」であり、
陰気の盛んな寒さの厳しいときに発病すると症状は重くなります。

人体の陽気は、体表を温めると同時に、適当に発散していますが、
寒気に侵入されると、体表面が温められないため、先に悪寒症状を表します。

次いで、発散されない陽気が、体表の内側に滞りますので、発熱症状が出るのです。

経絡理論でいうと、発熱の第一日目は、太陽経が病を受けます。
太陽経は、頭、頸、背、腰を通っていますので、これらの部分がこわばり痛みます。
二日目は、陽明経が熱を受けます。
陽明経は、目や鼻を通っているので、目が痛んだり、鼻が乾いたりします。

邪気が侵入して三日目になると、少陽経が熱を受けます。
少陽経は、胸や脇や耳を通っている気のルートなので、胸や脇が痛んだり、耳がおかしくなったりします。

これらの三陽経が病んだ場合は、発汗させることが治療法となります。

例えば、太陽経の熱には、麻黄湯(まおうとう)か桂枝湯(けいしとう)。
陽明経の熱には、葛根湯(かっこんとう)か桂枝加葛根湯(けいしかかっこんとう)。
少陽経の熱には、小柴胡湯(しょうさいことう)か柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)などが効を奏します。

これらの三陽経の熱病が治せないと、陰経が次に熱に侵されることになります。

四日目になると、太陰経が熱を受けることになります。
太陰経の気のルートは胃と咽喉を通っているので、腹が張って咽喉が渇きます。

五日目になると、少陰経が熱を受けます。
少陰経は、腎と肺を通って、舌の根元まで通っていますので、口がカラカラに乾きます。

六日目になると、蕨陰(けついん)経が熱を受けます。
蕨陰経は、生殖器と肝を通っていますので、腹が張って胸が苦しく、
男性なら陰嚢が縮みあがることになります。^^;

これらの三陰経が熱に侵された場合は、胃腸に熱を生じますので、
大承気湯(だいじょうきとう)などの大黄と芒硝を含む漢方を用いて、腸から熱を下すことが治療法となります。

先表後裏と称して、先ず発汗させ、後に胃腸に熱があれば下して熱を取るのが通常の治療法です。

ところが、表熱裏寒と称して、表裏の経絡が同時に病む、
両感の病というものがあります。

太陽経から順に熱が伝わったのではなく、
太陽経と表裏関係にある少陰経も同時に寒邪の気を受けた場合、
裏の虚(気の不足)や寒気を、補い温めた後でないと、発汗しても治せません。^^;

この表熱裏寒の症状は、体力の衰えた人や冷え性の人、
胃腸の弱い人が熱を発した場合に、よく現れ、
通常の方法では風邪や寒邪が治らず、こじれてしまうものです。

通常元気な人でも、無理な労働、過労や房事過多の後に発熱すると、
多くは表熱裏寒の状態になっているものです。^^;

経絡で説明すると、こうです。

体表に寒邪の気が侵入すると、太陽経に陽気が滞って発熱します。
体裏の少陰経が寒邪を受けると、通常は、少陰経の気が抵抗して頑張り、
病邪の気を腑である膀胱へ押し返して、排出しようとします。

しかし、陽気の少ない=体力のない人は、腎が冷やされてしまいます。
そうすると、陽気が腎に虚(不足)しますので、初日は、冷えて腹が張り、胸苦しくなります。

二日目になると、陽明経に熱が伝わり、太陰経には寒が伝わります。

三日目になると、少陽経に熱が伝わり、蕨陰経に寒が伝わります。

三陽経の熱は腑に入り、三陰経の寒は臓に伝わるわけですが、
胃の気が絶えると人は死ぬことになります。

死ぬほどの重病でなくても、病理を理解し手当てすれば、手当てにまさる手遅れなしです。^^

表が熱し、裏に寒があれば、人参湯、呉シュユ湯、四逆散などを用いて、温めた後、発汗剤を用いるのです。

表が熱し、裏が虚して、元気なく動悸などがあれば、
八味丸、小建中湯、シャ甘草湯(しゃかんぞうとう)などで裏の気を補った後、発汗剤を用いるのです。

発汗しても治らない熱の場合は、たいてい裏虚や裏寒があるものです。

発汗しても治らず、下すべき症状がない場合は多くあるものです。

このようなときは、呉シュユ湯や人参湯を用いて解熱するのです。

完全に胃腸の熱になっていると確信した場合のみ、下剤を適用すべきでしょう。

また、熱があるときに飲み物を与える場合、口が渇くからといって不用意に水を飲まさず、
温かいものを少しずつ与えるべきです。

もちろん、身体も温めてね。^^

冷やすと、熱は陰陽の術理で、高くなりやすのですよ。^^;