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03:人格異常・性格異常・病的性格と犯罪

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私たちは、いろいろな性格を持っています。
それぞれが個性ですから、もちろんそれで良いのですが、性格の偏りが大きすぎて、
自分自身が困ったり、周囲が困ったりすることがあります。
そうなると、もう個性とは言えず、
性格異常、病的性格、人格障害などと呼ばれる、性格の病になってしまいます。
現在の日本では、10人中3人が、なんらかの精神的異常要因を持っていると云われています。

人格障害(性格異常とも病的性格とも云います)が災いして、犯罪者になってしまう人もたくさんいます。
福島章博士は、シュナイダーの分類に基づいて次のような10の人格障害と犯罪の関係を考えています。
(犯罪心理学入門 中公新書より抜粋)

1.意志欠如型
意志が弱い。持久力がない。
自発性や積極性に欠ける。そのために勉強も仕事も長続きしない人です。
飽きっぽくて、地道な努力を続けるのが苦手です。周囲の人間の影響を受けやすく、誘惑に弱く、犯罪に誘われやすいのです。
また、自分の人生を長い目で見ることができません。
犯罪者の中では、一番多いパターンです。
逮捕されれば、深く反省するのですが、出所して、また元の環境に戻ると、意志が弱いために犯罪を繰り返してしまいます。

2.軽そう者
軽薄、お調子者。明るくて活動的で元気ですが、軽率なところがあります。
そのた めに軽い犯罪を繰り返すことがあります。
人生が上手く行っているときには、能力を発揮することもあるのですが、
調子に乗りすぎると、興奮しすぎてトラブルを起こすこともあります。
犯罪としては比較的軽い犯罪が多いのですが、反省しないために犯罪を繰り返します。

3.爆発者
突然、怒ったり興奮したりする人々。暴力を振るって傷害事件などを起こします。
このタイプは、さらに2つに分類できます。

1. 刺激型:すぐに頭に来てキレるタイプ。軽い暴力犯罪などを繰り返します。
2. 興奮型:不快感がだんだんたまり、あるとき爆発するタイプです。

計画的な殺人や傷害致死など、重大犯罪を犯すこともあります。
爆発者も犯罪を繰り返す人々ですが、中年になると、今までの行為を「若気の至り」として、
落ち着いた生活に戻る人たちも少なくありません。

4.自己顕示者(ヒステリー性格、演技性性格)
見えっ張り。
目立ちたがり屋。
いつも自分が中心でいたい、極端な自己中心。
詐欺など、金銭目当ての知能犯のタイプです。
計算されたウソをついて人をだますタイプもありますし、自分の空想を自分でも信じてしまうタイプもあります。
自分でも信じているのですから、普通に聞けばとてもウソとは思えません。
マスコミの前で多弁に話続けた林真須美容疑者は、演技性性格ではないかといわれています。

5.情性欠如者
同情、哀れみ、良心、恥、後悔などを感じない人々。
他人の苦しみに鈍感なだけで なく、自分の将来にも無関心になります。
普通の人は、人を傷つければ良心が痛むのですが、このタイプの人はなんとも思いません。
殺人、強盗、レイプなど、凶悪で残忍な犯行も平気で起こしてしまいます。
人生の早い時期から犯罪を犯すタイプで、犯行を繰り返します。
多くの犯罪者がこの傾向を持っています。

6.狂信者
ある信念のために生涯を賭けて戦う人々。
何かを強く信じることは悪いことではあ りませんが、普通は堅い信念と同時に、客観性を失いません。
狂信者の中には、小さなことや自分の思い込みで、裁判所に訴訟を繰り返す人もいます。

7.気分易変者
すぐにイライラし、不機嫌になる人々。
いつもこの不快感が解消できません。
そのため、金銭目的やうらみなどの動機がなくても、放火、万引、暴力などを繰り返すことがあります。
そんなことをしているときには、気分がすっきりするからです。

8.自信欠乏者
小心、内気。
自意識が強く、他人の目を気にする人々。
傷つくことをとても恐れて います。
気が小さいという点では、犯罪を犯すことが少ないのですが、場合によっては被害妄想的な思いを持つことがあります。
長年にわたって被害妄想やうらみを持ち続け、大量殺人の計画を立ててしまう事例もあります。

9.抑うつ者
悲観的で暗い気分でいることが多い人々。
この性格が直接犯罪に結びつくことはあまりありません。

10.無力者
神経質で、元気のない人々。
この性格も直接犯罪に結びつくことはあまりまりません。

一人の人が、いくつかの人格障害を重複して持っていることがあります。
その組み合わせによって、様々な凶悪犯罪が発生してしまいます。
また、時代や文化、研究者によって、人格障害の分類はことなります。
次の分類は、シュタイナーの分類にはありませんが、
近年よく話題になる人格障害として、次のようなものがあります。

反社会性人格障害
他人の権利を無視する。違法行為を繰り返す。人をだます。計画性がなく、衝動的。
自分や他者の安全を考えない向こう見ず。攻撃的で、すぐ怒る。無責任。良心の欠如。
このタイプの人々は、しばしば恐ろしい犯罪を繰り返す犯罪者になっていきます。

境界例(あるいは境界性)人格障害

自分が人から見捨てられるのではないかという強い不安を持っています。
人からの完全な愛を求めます。  そのため、いろいろな方法を使って、周囲の人を操ろうとします。
たくましい男性が腕力を使うこともありますし、女性が女の武器を使うこともあります。
自分の味方を作るためにウソをついて、他人を仲たがいさせることもあります。
この人たちは、上手く行っているときはなかなか魅力的で、
知能も高い人もいるので、学校や職場に入ってくることもあります。
しかし、集団の中ではその人が元で様々な問題が起きてしまうトラブルメーカーになるでしょう。
また、感情が激しく、爆発的な怒りを抑えることができません。極端なわがままを言うこともあります。
この人達は親に暴力をふるったり、親の財産を勝手に処分することなどがあり、
親が雲隠れしている例などもあります。
かつてある殺人者が境界例性格障害の診断を受けましたが、
善悪の判断はついたということで、有罪判決を受けた実例があります。

自己愛性人格障害

自分を愛することは健康なことです。自分には価値があると信じ、
そして周りの人々も価値のある人たちだと信じる。
これは心の健康と社会適応のためには、とても大切な思いです。
しかし、自己愛性格障害者は自分だけがすばらしい人間だと思っています。
自分が成功しないのは、自分が悪いのではなく、周りの見る目がないと感じます。
大人になって、自分の能力がそれほどでもないということになると、
生活が破綻することがあります。

こんなふうに、いろいろあげていくと、「私もこの人格障害かな」などと考えてしまう人がいます。
しかし、そのような傾向を持っていたとしても、
自分や周りが困り果ててしまわないようであれば、人格障害ではありません。

社会心理学の分野からは、今後も人格障害者は増えていくと指摘されています。

心が病む前に、性格が歪み切る前に、自分にもある異常兆候や要因を認め自律することが、大切ですね。
それこそが、適応であり、成長に繋がることと思います。